アメリカの大統領選挙の中間報告 ー トランプ旋風は何を意味するのか 坂 達 也 2016年5月2日
アメリカの大統領選挙の中間報告 ー
トランプ旋風は何を意味するのか
坂 達 也
今回は現在進行中のアメリカの大統領選挙についてご報告させていただきます。多くのアメリカの政治評論家が、今年のような選挙戦は「見たことがない」「歴史に残る」と言い、その混沌とした成り行きがもたらす緊迫感は尋常のものではありません。その理由は、今回の選挙戦ほどアメリカ市民の不満と怒りが党派を超えて爆発したことは最近ではなかったことであるからです。
その市民の不満の矛先は、いわゆる establishment 「既存組織」と称する国の政党・政府に対してであり、これを俗に「 ワシントン」と呼びます。同時に、その政治体制を裏で支える国の経済金融組織がこれに付属し、これを「ウオール街」と呼んで、この二つの言葉で象徴される国全体の「金権政治支配体制」に対して市民の怒りが燃え上がったのです。そしてその結果、今では二大政党そのものが根底から揺り動かされています。これに火を付けたのが共和党から立候補したドナルド・トランプ氏であり、又、社会主義思想を掲げてクリントン候補に肉薄し脅かした民主党のサンダース上院議員です。
今年の選挙の最大の特徴は何でしょうか。それは何と言っても、政治には素人であり(それがよいところですが)不動産を中心に巨万の富を築き上げ、商売人として交渉毎には海千山千の経験を持つ実力者で毒舌家のドナルド・トランプ氏という全く異色の人物が登場したことです。そして、この人に煽られた形で、眠っていた子どもが起こされたかのように、一般市民が一斉に呼応して立ち上がりました。しかも立ち上がったのは賛成する人たちだけでなく、彼を憎む人たちも立ち上がって激しく反対しています。
ご存知のように、4年に一度全州を挙げて鳴り物入りで行われるアメリカの大統領選挙は、世界で類がない程の多大な時間とエネルギーを掛け、膨大な資金が投入されますが、それだけにこの大統領選挙を見ているだけで、この国の状態がよく分かります。
トランプ氏が立候補している共和党は、概して保守主義の立場をとり、より強くキリスト教の立場に立つ政党です。一方の民主党にも少なからずクリスチャンはいますが、全般的にはリベラルな立場に立つ政党であると色分けされています。そんな両党の争いの中で、トランプ候補はどちらの党にもかなり彼を嫌う人と、好む人がいて、特に民主党からは党を鞍替えしてまでトランプ候補に投票する人が相当数出て来ました。この現象は今回の選挙での大きな特徴の一つで、最近ではあまり例を見ない異例な事態へと発展しつつあります。
特に彼が立候補した共和党内には、彼のクリスチャンらしくない下品な言動と、共和党らしからぬ中立的な考えを堂々と述べていること、それに本選挙でトランプ氏は民主党候補のクリントン氏には勝ち目がないという全国世論調査の数字が出ていることから、特に共和党幹部の人たちは絶対にトランプ候補を退けようとしています。そして予備選と党大会を通じて、クリスチャンとしての評判が高く、保守的憲法論者である正統的共和党の優等生テッド・クルーズ氏(世論調査では彼の方がクリントン氏に勝てる予想が出ています)が何としてもトランプ候補に勝つこと、あるいは最悪の場合、全く今はまだ立候補していない人を党が立てる準備を目下画策中です。実際に両党共、その選挙制度の複雑な党規約を持ち、もし予備選を通じて党代議員全体の投票数が過半数に達しなければ、党自体の考えで別な人を党の最終候補に仕立てることも可能にする党特有の制度があるようです。(その制度は州によって違い、あまりにも複雑でほとんどの人が理解出来ていません。)しかし、トランプ候補は自分は絶対にクリントン候補に勝てると断言し、もし党大会で自分が誰よりも多い代議員数を獲得しているにもかかわらず(過半数1237票に達しない場合)他の人を党が立てたら、民衆が暴動を起こすと言い、実際には、本日現在過半数に達する可能性がかなり高くなっています。
ここで、民主党の状況に触れたいと思います。民主党では過去8年間二期目の務めを終わろうとしている現職オバマ大統領への民衆の不満がかなり高まっていることが明らかです。その大きな理由の一つは、このところアメリカは貧富の差が益々激しくなり、特に中間層で数字的には失業者数は減っていても、自分の能力に合った仕事に就職出来ていないことを加味すれば実質失業率は30%近くになると言われ、国民の収入が減り生活は苦しくなっていることが挙げられます。次に大きな問題は、彼自身は表向きクリスチャンと言いながらも明らかにアラブに対する特別に親しい思いを持っていることが誰の目にも明らかであることです。特にイスラエルに冷たく、実際に彼は過激派イスラムを敵であると名指して呼ぶことを決してしません。その他、メキシコ国境はないに等しく、旅券のない人たちがどんどん入って来るのを許していること、又、彼には自国アメリカよりも他国の立場を思いやる気持ちが強く、海外で人気がある程に自国では人気がありません。そのオバマ政権で国務長官を務めたクリントン氏は、夫が大統領であったときからファースト・レデイーとして知られ、今回は二度目の大統領候補出馬であり、恐らく世界で最も知名度の高い大統領候補です。しかし政策的には悪名高いオバマ・ケアーを始め、外交政策においても、いい意味でも悪い意味でも彼女は第三次オバマ大統領と言われるように、オバマ氏の延長線にいる人で代り映えはしません。その彼女は今二つの大きな問題を抱えています。その一つ目は、彼女が国務長官時代に、公のEメール・サーバーを使うべきところを、個人のものを多く公用に使っていたことから、国の最重要機密情報が漏れている可能性が高いという嫌疑がかけられ、目下 FBI の取調も大詰めに来ていて、彼女が早ければ予備選中に告訴される可能性が十分にあることです。もう一つは彼女は夫が大統領退役後、二人で恊働して海外の国々を廻ったり、国内ではウオール街関係の大会社投資家グループに密着し、個人的に莫大な収入を得て来たことです。それは彼らがかけ離れて高額な講演料を取っていることが問題にされ、ウオール街関係から相当な選挙資金が集まっていることから、一頃の日本の政治家のように収賄まがいの政治献金がささやかれて来て、講演テープを公にする要求が最近取り沙汰されています。そんな関係でクリントン氏の人気はもう一つと言うところですが、彼女をここまで支えて来た人気は、知名度と主に女性からのもの、そして州によっては人種的な黒人、メキシコ人からの票が集まると言われます。中でも大きいのは、彼女はアメリカの女性票の七割は握っていると言われ、特にトランプ候補が女性に人気がないことから、トランプはクリントンには勝てないといわれるゆえんもそこから来ているようです。又、今は唯一の競争相手のサンダーズ候補が、社会主義者として、大学の授業料を国が払う等の政策を掲げて30歳前の若者の世代に大きな人気を博していますが、そのサンダース氏は、かなりの時期、人気投票でクリントン氏と並ぶ勢いであったのも、彼女の人気の無さの現れです。
そこで今回トランプ候補に人気が集まる理由をもう一つ申し上げれば、彼がアメリカを愛する強い愛国心を持っていることです。リック・ジョイナー師は最近主から、これからは愛国心を持つことは大切なことであるといわれたそうです。トランプ氏は民衆に対して海外に流失し奪われた多大な職とドル資本を取り返すことを約束しています。それと共に、オバマ大統領時代に軍関係の予算が削られたことによって、現在のアメリカの軍備力は技術的にも軍人数においても、10年前に比べてかなり劣っていることです。それをロシヤと中国が知らない訳はなく、最近アメリカは世界から侮られ、軽視されていることが明らかな事件が相次いでバルチック海とか南シナ海の人口島で起こっています。ロシヤと中国が北朝鮮、イランとも連絡を取っていることは明らかです。又、過激派イスラム、 ISIS のアメリカ国内侵入も現実に大きな脅威となっていることを、トランプ氏は何としても防ぐ用意をすることを約束しています。
それを言えば、アメリカは既に経済的にも今や世界の同盟国への防衛協力の義務を履行するに充分な力もなくなりつつあるという厳粛な事実を私個人も認め、日本の皆様にお伝えしたいと思います。本当に戦争への危険信号の警鐘が既に高らかに鳴っているのです。
最後に私個人は、今のような危機を切り抜け、非常事態にあるアメリカを回復させるためには、多少ラフでくせがあっても、愛国心と情熱を持つトランプ氏のような豊かなアメリカン・ドリームの成功者としての経験に併せて、倒産からの立て直しにも苦労した多様な経験を持ち、ビジネスで鍛え抜いた交渉の知恵とガッツを持つ人間が必要であると信じます。政治家の多くは弁護士とかアカデミックな出身者が多く、タフな相手と難しい交渉をするような経験を持ち合わせない人がほとんどです。その点私はトランプ氏に期待したいと思います。以上のことをお伝えした上で、以下で先日トランプ候補が演説した、彼の「外交政策施政方針」の概要を参考迄にご報告します。
トランプ氏の外交政策施政方針の発表(4月27日)
私の外交政策の基本は、アメリカ国民とその安全を守ることが、常に他のすべてのことに優先する「アメリカ第一主義」にあることを先ず強調します。
過去を振り返れば、1940年代にアメリカはナチと日本帝国主義の侵略を食い止めることに成功し世界を救いました。そして次に全体主義とコミュニズムを抑えました。長期のコールド・ワーを通りましたが、この間私たち共和党と民主党が協調し、我が国の偉大なレーガン大統領によってゴルバチョフ氏をしてその隔ての「壁」を崩しました。しかし残念ながらその後のアメリカの外交政策は、全く賢明さを欠く愚かさと傲慢により、イラク戦争という大きな間違いを起こし、その間違いはエジプトからリビヤに、そして今ではシリヤへと移り、惨事に惨事を重ねる結果となりました。これらの間違いはその地域を混沌に陥し入れただけでなく、その結果がISISが生まれ育つ隙間を与えてしまったのです。この間多くの人が殺され何十万というアメリカ人が命を落とし、何兆ドルという莫大なお金の無駄使いを生む結果となりました。又この間、イランが抜け駆けの莫大な利を得るという、我が国の外交政策は完全な無策失策としか言えません。
私は本日、現状のアメリカが持つ五つの最も大きな「脆弱さ」を指摘します。第一は、我々の財政は完全に過剰に使い込まれている事実です。オバマ大統領は予算の無駄な使い方と過大な借金を抱え込んだ末、アメリカ経済を弱めた報いとして軍備が弱体化しています。それにもかかわらず経済成長は低く、膨大な貿易赤字と、それに二つの国境線が無防備状態に放置されています。そしてアメリカの工業製品貿易負債は今や年間で1兆ドルに達しつつあります。
アメリカは自国を犠牲にしながら多くの他国の再建をしています。結果としてアメリカ人の職が奪われ、軍備を強化再建する予算を失い、それが国の財政独立(借金からの解放)と国力回復を妨げているー私は大統領に立候補している人々の中で唯一、それがどれ程重大な問題であるかを理解している人間です。信じて下さい。私はその重要さを知っているだけでなく、それを是正出来る唯一の候補者であることを。(拍手)
第二に、私たちの同盟国 allies は、私たちに掛かっている防衛費用と政治的協力、並びに人的費用を含む全体に対して、それぞれが分担すべき費用を支払っていないことです。彼らはアメリカは弱い、払わなくても赦してくれる、そして分担する義務はないと見ているようです。NATO の例をとれば、28のメンバー国のうちアメリカを除く僅か4カ国だけが GDP の2%を防衛費として負担する約束を守っているだけです。私たちは何兆ドルも使ってヨーロッパだけでなくアジアの国々を守っております。それらの国々はその費用の正当な額を分担してもらわねばなりません。さもなければ、アメリカはそれらの国が自分自身で自国を防衛する体制作りの準備をしなければなりません。私たちはそれ以外の選択肢はありません。(拍手)トランプ政権は世界の自由諸国を適正に防衛するための軍隊を持ち、それに資金協力し指導することにやぶさかではありません。
第三に、私たちの友好国は我々には最早頼れないと考え始めています。なぜなら、私たちの国は友人をないがしろにし、むしろ敵に頭を下げるという、今迄我が国の歴史上見たことのないような一人の大統領が存在して来たからです。彼はアメリカが多大な損傷を負う契約をイランと結び、相手がサインしたそのインクが乾く間もないうちにその条約条件を無視するのを私たちは見せられました。条約を結ぶ相手に、こちらは条約をどうしても結びたいという弱腰であることを見透かされてよい契約を結べる訳がありません。同時に、交渉相手には私たちが契約した以上それを絶対に守り守らせる強い意志があることを知らせる必要があります。契約を相互が忠実に守る世の中であってこそ世界はよくなります。イランには絶対に核兵器を持たせられません。(拍手)トランプ内閣の下ではそうなることを絶対に許しません。
イスラエルー私たちの偉大な友人であり、中東において唯一真のデモクラシー国家であるイスラエルの国は、確かなモラルを欠くアメリカ内閣によって幾度も肘鉄を食わされ、冷たくあしらわれて来ました。現に数日前にバイデン・アメリカ副大統領はイスラエルを厳しく批判しました。オバマ大統領はイスラエルに友好的ではありません。その一方彼はイランには優しい愛で接し、その国を短い間に偉大な国にしたのです。私たちアメリカは我々の最も古い友人国に喧嘩を売る行為をし、彼らはアメリカ以外の国に助けを求め始めているのです。このことを憶えておいてください。
オバマ大統領の屈辱的行為には枚挙にいとまがありません。彼は何のすべもないかのように北朝鮮の核兵器の脅しに手をこまねいて見ているだけです。中国は北朝鮮に対しててこを使っての圧力を掛けることができるはずです。私たちの大統領は中国の、特にアメリカ人の富と職を奪うという経済的攻撃の継続を許していますが、アメリカは中国に対して経済的な圧力をかけることは出来るはずですが、オバマ大統領はそれをしようとはしません。彼は中国がサイバーアタックによってアメリカとその会社からスパイ行為でテクニカル情報を盗むことを許しています。
アメリカは人道主義国家ではありますが、オバマークリントンが求める遺産 legacy は弱いもの、混乱、無秩序、めちゃくちゃ状態をもたらすでしょう。私たちは中東情勢を今迄にない程不安定で混沌とした状態に導き、クリスチャンを激しい迫害にさらし、計画的絶滅に追いやりました。(拍手)私たちはクリスチャンを助ける何の手も打ってないのです。その実行力のなさを恥ずべきです。私たちがしたイラク、リビヤ、シリヤでの行動が ISIS を解き放ち、過激派イスラムに対して私たちは戦争状態にあるにもかかわらず、オバマ大統領はその敵の名前を口にしないのです。もしあなたがあなたの敵の名前をはっきり言わない(敵と思わない)なら、その問題を解決することは出来ないでしょう。(拍手)ヒラリークリントンも過激派イスラム radical Islam という言葉を使うことを拒否しています。クリントン長官がリビヤでの干渉に失敗した後に、ベンガジーにいた過激派イスラムのテロリストたちはそこにあったアメリカ大使館を襲撃し、大使と三人の勇敢なアメリカ人を殺したのでした。その様な一大危機に面したとき、クリントン長官は家に帰って寝てしまったのです。そしてアメリカの大使は殺され、彼女はアメリカの国としての指示を誤ったのです。その時午前三時に緊急電話が入ったのですが彼女は寝ていたのです。そして今 ISIS はリビヤを占領し、リビヤの油田からオイルを売って週に何百万ドルの収益を上げています。それをアメリカは阻止もせず、爆撃も何もしなかったのです。このような大きな間違いは私が大統領になればすべて変わります。私たちの友好国、同盟国の皆さんに言います。アメリカは再び強く、頼りになる国になります。
私たちは自国を豊かにすることを止め、替わりに世界の安定回復に集中して来ました。しかし今回今こそ民主党、共和党の両政党に加え、私たちに近しい同盟国の知恵をすべて集めて、最も思慮ある新しい外交政策を必要としています。 (拍手)
そのためには第一に、過激派イスラムの広がりを阻止する長期的なプランが必要です。これがアメリカ合衆国並びに世界における今最も大きな外交政策でなければなりません。そのためにはイスラム世界での私たちの同盟国とも密接に協力し合って戦って行かねばならず、それは一方通行の関係であってはなりません。そして過激派イスラムとの戦いはアメリカの本土内でも厳しく行われねばなりません。最近の発見された移民としてアメリカに紛れ込んだテロリストの一団だけでなく、これからも多くのテロリストを摘発するために意味をなす移民法が実施されねばなりません。
第二に、私たちは軍備と国の経済の再建に迫られております。ロシヤと中国は軍事力の拡張を急速に行っておりますが、彼らの威圧に対抗するための究極の武器である私たちの核兵器の内容は旧式で、軍備全体の性能の近代化と増備に迫られています。我々の実戦準備状態にある兵役数は1991年には2百万であったものが、今は130万です。海軍が保有する戦艦数は同時期に500船から272船に減らされ、空軍は約1/3縮小されています。その上、オバマ大統領は2017年の軍備予算を2011年のものと比べて実質25%縮小したものを提案しています。
私たちは今、何をさておいても弱体化したアメリカ自身を元の豊かで偉大な国に戻すことに最善の努力を傾けねばなりません。それが世界の友好国のためにもなるからです。(終り)